vol.7 データ復旧における初期診断って何?

2013/06/17

インターネットで「データ復旧」を検索すると、すごい数のデータ復旧に関連した業者のサイトが表示されます。そして、多くのデータ復旧業者が「初期診断無料」とか「調査費無料」と、いかにも親切そうな謳い文句を掲げています。

では、この「初期診断」とか「調査」とは一体何なのでしょうか。

1.初期診断とは?

日本に於ける、唯一のデータ復旧業者の団体である「日本データ復旧協会」では、

「初期診断(しょきしんだん) / 初期調査(しょきちょうさ)」
会社によって呼び方も実際の作業もまちまちですが、当協会では、データ復旧のために行う「調査」とは、お預かりしたメディアの障害タイプ(論理障害/物理障害)を判別し、中に入っているデータのうち、どの程度(0%~100%)の復旧ができるかまでを調査し、その結果をお知らせすることを指します。

と、説明しています。

筆者の「独断と偏見」によって、「日本データ復旧協会」の使っている言葉で、「初期診断」を説明すると以下の様になります。

「初期診断」とは、お預かりしたメディアの障害タイプ(論理障害/物理障害)を判別し、データ復旧作業を行うために、どのような手法が必要となるかを判定すること。
一言で分かり易く言ってしまえば、「現実に発生している故障の状況や症状の確認作業」ということです。

2.「初期診断」作業内容は?

実際の作業内容については、各社各様と言われていますが、本来その対象となるメディアに起因する違いはあっても、大きな違いが存在する理由はありません。データ復旧として最も多く取り扱われているハードディスクドライブ(HDD)を例にして説明すると、電源に接続して起動し、そのHDDが内部に持っていて電源に接続されると自動的に実行する「起動シーケンス」を動作させれば、そのHDDがどうなっているのか、おおよその判断は出来てしまうのです。但し、データ復旧においては、症状を判断する事が「第一の目標」ではなく、「データを復旧すること」が目的ですから、その行為によってデータ復旧の可能性が低くなる事だけは避ける必要があります。その為には、データ復旧依頼者から、実際の状況を良く分かるように説明をしてもらうことが大切で、特に内部から異音が発生している場合などは、ヘッドクラッシュなどの可能性があり、そのまま電源に接続すると、データ復旧が不可能になってしまうような、致命的な事態を引き起こすことを防ぐために、真っ先に蓋を開けて内部の状況を確認する必要がある場合も少なく有りません。

ネット上の巨大掲示板などで、「データ復旧業者に断りも無く蓋を開けられてしまった」などと不平不満を並べてあったり、「許可無く蓋を開けるのはもってのほか」のような事を書いてあったりしますが、それを理由に「当社は、許可無くHDDを開封する事はありません」などの記載をする業者は、逆にHDDのことを理解していない証拠ともいえます。業者として「HDDの開封を希望しない場合は、開封禁止を明記してください。但し、その場合に発生するリスクについてはお客様の責任となります」位の言葉を明記することが、データ復旧に対する真のプロフェッショナルとして責任のある姿だと思います。

3.HDDの起動シーケンスとは?

HDDは、データが内部の円盤(プラッタ)上に記録されていて、それを読み込む事で初めて、読み書き可能な記録装置として機能します。そのためには、パソコンなどのシステムに対して、HDDが記録媒体として接続していることを認識させる必要があるため、動作の準備を自動的に行った後に、異常が無ければ「準備完了(Ready)」信号を送ります。ここまでの動作を、HDDの起動シーケンスと呼び、具体的には以下の様な動作をします。

  1. ファームウェアを読み込み、
  2. SA(システムエリア、サービスエリア、トラックゼロ情報、基本的物理構造情報などと呼ばれます)を読み、
  3. その内容と実際の状況が一致しているか、確認動作を行い、
  4. 一致していれば、Ready信号を出力し、
  5. BIOSやOSに認識されます。

ですから、この起動シーケンスが無事に完了するのか、途中でエラー停止するのか、そのエラーはいつ何処で発生したのか、が分かれば、HDDに何が起きているのか、何をどう処置することによってエラーの発生を回避することが出来るのか、などの概要を把握する事が出来るので、この「起動シーケンス」の動作をもって「初期診断」とすることが出来、経験が豊富であれば、実際にHDDの内部を見ることなく、動作音(異音も含め、メーカや機種ごとに特徴がある)を聞く事だけで判定することが出来るのです。

注意:以前は、代表的な障害内容の切り分け手法として、BIOSでの認識の有無が用いられていましたが、最近のHDDでは、この手法は必ずしも正しくありません。BIOSは、接続されている媒体に対して、順番に信号を送り、メディアIDとReady信号の出力を待ち、その結果で認識しています。

HDDのメディアIDは、昔はプラッタのSA領域だけに存在したので、「認識できない=SAが読めない=物理障害」が成立していましたが、最近は、基板上のメモリーからIDを返す物も存在するので、BIOS画面の表示だけで判定することは出来ません。また、HDDの型番や容量などが表示されていても、Ready信号がHDDから出力されていない場合は、BIOSで認識されたと呼ぶ事は正しくありません。